permanent commissioning

永久試運転

『生まれた時からアルデンテ』というロック

フードエッセイスト平野紗季子さんの食エッセイ、『生まれた時からアルデンテ』はロックである。
 
近頃ゆるふわ系グルメ本を多読していた身には若干刺激が強い。
開いてほんの数ページでおののいた。
平野さんが小さい頃の”食べ歩きダイアリー”が載っているのだ。

 

子どもが書いたとは思えない、鋭く(ときに厳しい)目線のコメント。*1
当時の平野さんがこれを書いたころの自分なんてせいぜい「美味しい」か「美味しくない」かくらいの違いしか言えないんじゃないだろうか。
むしろ細かい差などもわからず、苦手な食べ物以外はだいたい美味しいと思っていた気がする。
 
自分が平野さんを知ったのはごく最近。*2
ラジオでの食べものに対するときめきを隠し切れない少女のような声と喋り、絶妙な比喩を繰り出す語彙力にどうしようもなく惹かれた。
それゆえ当時23歳の平野さんの文章、そして写真は無性にエモーショナルに映ったのだ。
 
 
 と、まあ色々書いている訳だけども。
 
だって、「申し訳程度に出てきたランチサラダ」のページとか、どう考えてもロックじゃん!!!?????
「申し訳程度に出てきた1000円ランチのグリーンサラダを集めて東京のアスファルトを埋め尽くすんだ~」という文が添えられたミニサラダたち。
 
ヒロタのシュークリーム「オモテくん」の写真が9枚集められた「今日のオモテくん」もなかなかにパンチが効いている。
同様に「切り身ちゃん」(サンリオのKIRIMIちゃんではなくガチの切り身を模している)といわゆる”ぬい撮り”をした写真も見逃せないポイント。
 
 
平野さんの文章の魅力はそれだけに留まらない。
セントルザベーカリーのフルーツサンドのクリームが2層になっていることを書きながらパイの実が64層であることに触れたり、
コンコンブルの「パカ」の話は妙に自分のツボを突いてくる。
自分も系列店の新宿「クレッソニエール」でトマトの肉詰めを食べたことがあるけれど、あの 「パカ」は無かった気がする。

新宿のクレッソニエールのランチ

新宿「クレッソニエール」のトマトの肉詰めランチ。渋谷の「コンコンブル」でも食べたいね…
 
缶入りの柿の種にスライスチーズを投げ込んで「チーズおかき」を生成したり、”パピコはお風呂で食べる”ページは最高にエモい。
 
カロンを潰したい衝動に駆られる平野さんは、以前『味な副音声』で「ポンデリングがかわいすぎて握りつぶしたくなる」と言ったときと近しいものを感じる。

 
自身を”食欲のしもべ”と評す平野さん。
『生まれた時からアルデンテ』は世の”食欲のしもべ”である人々、そしてそのひとりである平野紗季子さんの魅力に憑りつかれてしまう本だ。

 

生まれた時からアルデンテ

生まれた時からアルデンテ

 

 

*1:2021年現在の平野さんは先日のイベント『稲田俊輔×平野紗季子 「おいしい(だけじゃ勿体ない!)食べ物トーク』で「今だったら絶対こんなこと言えない」と仰っていたことも併記しておきたい。

*2:ゆえに7年越しの読書感想文など書いている訳です…